仕事で会うだけの50代半ば男から「恋人の僕に対して少し無神経だと思う」と手紙がきた

数年前まで、私はある中小メーカーの宣伝部に勤務していました。

うちの社の製品紹介用パンフを一部改訂することになった時のこと。大仕事ではなかったので、普段はアシスタント的に関わっていた私がその業務を担当することになりました。 

私の説明が悪いのかと思い、技術系スタッフに懇切丁寧に説明してもらいました。

が、真剣に聞いていないのか、次回の書き直しでもまた間違ってるのです。

いささか困った私が少し強く注意すると、
「君が悪いんだよ。」とＡ。

その真意が分からず、やはり私の説明が…と悩んでいました。

締切もあるし、と焦るある日、他の打ち合わせを終えて社に戻ると机の上に見慣れない包みが。不信に思いつつ開いてみると、小さなコーヒーカップが中に。

同僚女性に聞くと、Ａが来社し、黙って置いて帰ったと言います。何となく気持ち悪くて、机の上にそのまま放置しました。

人目のある場所で行ないたかったのです。

打ち合わせが終わるとき、私はわざと周りに聞こえるように「昨日はコーヒーカップをありがとうございました。でも、いただく言われがないのでお返しします。」とＡに向かって言いました。

Ａは少しひるんでいましたが、他意はないので良かったら使って欲しい、とコーヒーカップを受け取らずにそそくさと帰って行きました。

その翌日、私が当時住んでた一人暮らしの家に帰ると郵便受けに分厚い封筒が。

それは毛筆で連綿と書かれたＡからの手紙でした。

そもそも何でＡがうちを知ってるの!?とｶﾞｸﾌﾞﾙしながら読んだ内容は、紛れもなく勘助全開モードでした。

「みんなの前でコーヒーカップのことをバラされたのは秘密にしていたラブレターを読まれるような辛さだった。君の照れ隠しだとわかっているけど、恋人の僕に対して少し無神経だと思うよ。今後はああいう態度を改めてもらえないと、結婚できないな。君の望むことはわかってるんだから、将来のためにも今から僕の言うことは、ちゃんと聞いてもらわないとね。」

…もう読んでるうちに、全身がガタガタ震えてしまいました。

Ａがうちを突き止めた以上、うちにはいなくなかったのです。

翌朝、Ａからの狂った手紙を先輩(♂)に見せ、今までの仕事の進捗状況も説明すると先輩は上司と話し合い、私と担当を変わってくれました。

仕事上で直接Ａと接触せずに済んだ私は、すぐに転居先も彼氏の部屋の近くに定め、そそくさと引っ越しました。

Ａも何事もなかったかのように大人しくなり、パンフの仕事も終わってひと安心したある日のこと。

社のFAXから大量の文書が吐き出されました。
それはまたもや毛筆で書かれたＡからのものでした。

「〇〇(先輩)が二人の仲を割いているのはわかってる。僕たち二人に嫉妬して、先輩という立場を利用して君に圧力をかけているんだろう？僕はそんなものに屈しないし、君の気持ちもよくわかってる。そんな会社は辞めて、今すぐ二人で幸せになろう。」

こんな文面が、A4用紙に合計15枚です。

Ａには妻子もいるのです。

こんな寝ぼけたことをしでかして、妻子にもうちの社にも失礼極まりない！って。

私は無言でFAX用紙をかき集めると、勝手によこしたコーヒーカップとうちの郵便受けに入っていた手紙とを段ボールに梱包し、Ａの自宅へ宅急便で送りつけました。

幸い、仕事の資料送付のため、Ａの自宅住所は控えていたのです。

段ボールの上面には、油性ペンでデカデカと「迷惑ですので、お引き取り下さい」と書いてやりました。

奥さんに絞られたのか、その後はＡからの接触はピタリとなくなり、噂によれば、在籍していた広告代理店も退職したようです。

今も思い返すと、恐怖と怒りで手が震えてしまいます。
乱文長々と失礼しました。

Ａとは社内での打ち合わせ以外、一切接触していませんでした。

打ち合わせの間も、個人的な会話は全くなく、私自身も特別一目惚れされるタイプではないので何をもってあれだけの妄想に走られたのかは、今だに謎です。

勘助の妄想力の凄まじさを思い知らされました。
二度とあんな目には合いたくないものですね。